相続改正⑤

 被相続人の預貯金は、相続財産ですので遺産分割協議の対象となり、原則遺産分割を経なければ払い戻してもらえません。これは平成28年の判例変更によって運用が変わった結果です。そのため現在では金融機関ごとに定めた「相続届」を提出し、遺産分割を経た形式をとり、払戻しをしています。

 しかし、相続人の人数が多い場合や相続人間の話し合いが長期化するなどの事情によっては遺産分割が進まない可能性もあります。被相続人に生計を支えられていた人はその後の生活費に困ることになります。また、葬儀費用等のまとまった費用が用意できないなどの弊害も考えられます。そのような状況に対応するため、平成30年の民法改正では遺産分割前に預貯金債権を払い戻す方法として、2つの方法が新たに設定されました。

 ①家庭裁判所の判断を経ないで払戻しを受ける方法

  相続人は、単独で、各金融機関に対して、下記の計算式により算定した金額の払戻しを受けることが出来ます。

  【計算式】相続開始時点の預貯金額 × 1/3 × 法定相続分

  なお、この方法による払戻しには限度額があります。標準的な当面の必要性経費、平均的な葬儀の費用の額その他の事情を勘案して、預貯金の債権者(金融機関)ごとに150万円が限度額とされています。預貯金を3つの金融機関にしていれば、150万円×3行 で最大450万円まで払戻しを受けることが可能です。

 ②家庭裁判所の判断を経て仮に取得する方法

  これまでも家庭裁判所で調停・審判中に「急迫の危険を防止するため必要がある場合」には遺産の仮分割が出来る制度はありました。しかし要件が厳しく実用的ではありませんでした。そこで改正民法では以下の緩和した要件を満たす場合には預貯金の全部又は一部について相続人に仮の取得を認める事が出来ると規定しました。

  ・遺産分割の調停・審判が家庭裁判所に申立てられていること

  ・相続人が、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金を行使する必要があると認められること

  ・相続人が、上記の事情による権利行使を申立てたこと

  ・他の相続人の利益を害さないこと