相続手続③

 これまで相続手続に期限はありませんでした。被相続人の金融機関の通帳をずっと放置していても特段問題はありません。実際、昔の古い通帳が出てくることは珍しくありません。不動産に関しても、相続を原因として不動産の所有権を取得したとしても、登記簿上その旨の変更手続をする義務は今まではありませんでした。しかし、不動産登記に関しては、今後の法改正によって名義変更が義務化されます。所有者不明土地の増加が社会問題化していることに対応するためでもあります。具体的には「自己のために相続開始があったことを知り、かつ、不動産の所有権の取得を知った日から3年以内に登記申請義務」が発生します。この規定は遡及的適用がありますので注意が必要です。違反者には10万円以下の過料が科せられます。

 預貯金については前述の通り手続期限はありませんが、あまり放置しておくことはおすすめしません。なぜならその放置された財産は次の世代の相続人に相続財産として引継がれていくからです。世代が離れれば金融機関も名前を変えていたり合併していたりするかも知れません。通帳が紛失するリスクもあります。なによりその時点では相続人の数が複数枝分かれしていて相続人の特定と相続人全員の署名と印鑑証明書を取得するのにも大変なエネルギー要することになります。相続手続の放置は問題の先送りだといわれるのはこのためです。

 少し話がそれますが、少額の通帳などのようにメインではない相続財産があとから見つかったときに手続が簡単にできるように備えておく方法があります。それは遺言書を書いてもらいその中で「その他の財産については〇〇〇に相続させる」などと記載してもらっておく方法です。こうしておけば被相続人自身が認識していなかった財産がもし出てきたときに対処できます。通帳であれば相続人全員の署名や実印は不要で、指定された相続人単独で解約できます。遺言書を遺すのは遺された相続人が大変な思いをしないように、という面もあるのです。