相続改正⑥

 これまで、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言があれば、その相続人は登記をしなくても不動産の取得を第三者に対抗することが出来ていました。その結果、被相続人や相続人の債権者は、知ることの出来ない遺言の影響によって、相続財産に対する差し押さえ等の権利行使の有効無効が変わってしまうという不安定な立場に立たされていました。

 そこで平成30年の民法改正時に、これまでの判例の立場を変更し、民法第899条の2第1項で以下のように規定しました。

 『相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。』

 つまり、不動産を遺言によって取得した相続人は、その不動産の登記をしなければ、法定相続分を超える部分については第三者に対抗することが出来ません。その結果、債権者は、遺言の有無にかかわらず、登記を基準として判断すれば良くなりました。

 相続財産には債務などのマイナスの財産もあります。これまでの判例では、遺言によって相続分の指定がなされていれば、相続人間の内部的な債務の負担割合は当該相続分の指定による承継割合に従いつつも、債権者に対しては原則として法定相続分に応じて相続債務を承継するとされてきました。改正民法第902条の2はこのことを明文化したものです。条文は以下のようになっています。

 『被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、(法定)相続分に応じてその権利を行使することが出来る。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。』