相続改正⑦

 遺産分割の対象となる財産は、相続開始時に被相続人に属し、なおかつ、遺産分割時にも存在する財産です。しかし相続発生時と、遺産分割時はタイミングが違いますので、遺産分割までに相続人の一人が法定相続分に応じた割合を処分することも考えられます。そのような場合、従来の実務上では相続人間の合意があれば遺産分割前に処分された財産も遺産分割の対象として取扱ってきました。この点平成30年の民法改正時に実務での取扱について明文化されました。民法第906条の2では以下のように規定されています。

 『遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。』

 条文中の「同意」は、遺産を処分した相続人から得る必要はありません(同条2項)。ここで注意することは、遺産分割の対象とするのは、処分された財産そのものであって、処分されて金銭に形を変えた金銭ではないということです。これは、処分が無償あるいは不相当に安価にされていれば、他の相続人の利益を害する可能性があるからです。

 なお、遺産分割前の預貯金債権の払戻しも「遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合」に該当し、共同相続人の同意がなくても当然に遺産の一部を分割により取得したものとみなされます。

 では、相続人の一人が遺産分割前に法定相続分を超えて財産を処分した場合どうなるでしょうか。この場合法定相続分を超える部分は原則無効であって、当然に遺産分割の対象となります。しかし、法定相続分を超える部分であっても「準占有者に対する弁済」としてその処分が有効になる場合もあります。金融機関が被相続人の死亡を知る前に、相続人の一人が預貯金を引き出すのがその例です。その場合、前述のように処分した相続人以外の相続人の同意によって、処分された財産を遺産分割時に存在するとみなすことで公平を確保することになります。