現代社会は超高齢化社会です。一昔前とは事情が違います。高齢化に伴い3人に1人は認知症になると言われています。医療が発達し、寿命は延びてきています。健康寿命後の残りの人生をどのように過ごすのか、とても大きなテーマになってきていると思います。
認知症になった後では、その人の家族へ及ぼす影響を無視できません。現実的には財産管理や病院や施設の身元引受人・保証人は家族が行っているケースが多く見られます。本人が認知症になった後でも銀行のカードと通帳を使えば、本人でなくてもお金は引き出すことは出来ます。しかしカードが破損汚損したりして交換が必要となったときには銀行は本人の意思確認を求めます。その時に本人が認知症になっていることが銀行に知れ、口座が凍結される、という事態もあり得ます。その後は成年後見人制度の利用を検討するか、本人の相続が開始するまでその口座を放置するしか無いでしょう。なお、成年後見制度は家族にとって利用しにくい面が多々あり、利用率は非常に低調なのが現状です。
家族信託は、前段の「財産管理」に的を絞った制度です。本人がまだ認知症を発症していない元気なうちに、信頼できる家族と財産管理について契約を結びます。契約書の作成は私的な書面でも構いませんが、一般的には公正証書で作成することをおすすめしています。契約書で決めることは ・委託者(例えば親) ・受託者(例えば子) ・受益者(例えば親本人またはその配偶者や子の中の一人) ・財産目録 ・信託の目的 ・報酬 ・終了事由 など多岐にわたります。
信託する財産は全ての財産でも良いですし、一部でも可能です。信託財産の種類は不動産と現金(預貯金含む)がメインです。
信託契約を締結したら、対象の財産は受託者の名義に変更されます。不動産であれば登記上で受託者が所有者であると表示されます。金融機関の口座は受託者名義の口座に移します。ただし、登記上は信託財産であると併記されます。場合によっては信託目的も登記に記載されます。通帳名義も信託口口座である旨が明記されます。このことによって仮に受託者の債権者が受託者名義の信託財産を差し押さえようとしても、それを防ぐことが出来ます。信託財産には倒産隔離機能があると言われているのはこのことです。
信託財産とした財産は、委託者である親が認知症になった後でそのことが銀行に知れても、受託者である子が引き続き管理していくことができます。ここが家族信託の一番の利点と言えるでしょう。さらに家族信託契約は遺言代用機能も備えていますので、委託者である親が死亡した後の財産の帰属先を決めておくことができます。したがって遺言書を別に残す必要がなくなるのです。
現在の制度では、家族が認知症になった場合にその家族の財産を他の家族が管理する方法は限られています。昔からある成年後見制度はその一つです。もうひとつは家族信託です。家族信託は比較的最近出来た制度ですので時代のニーズに合わせて使いやすいようになっています。
家族信託について、これから少し深掘りしていきたいと思います。