受託者の会計業務

 信託法37条では、受託者の「帳簿等作成等、報告及び保存の義務」について定めています。どのようなことが定められているかというと、

  ・信託帳簿等の作成義務

  ・毎年一回定期の時期に財産状況開示資料を作成し、委託者に報告する義務

です。条文上では何だか面倒な事務処理が発生するように思えます。しかし商事信託と異なり、家族信託の受託者は会計の専門家ではありませんので、一般的な会計業務で求められる仕訳帳や総勘定元帳まで作成する必要はありません。具体的にはどのようにするかといえば、信託口口座でお金を管理しているのであれば、通帳を記帳し、お金の動きが分かるようにメモを添えておけばそれで足ります。従い、信託口口座のお金を動かすときは、現金で引き出すのでは無く、直接相手方に振り込むことをお勧めします。金融機関に提出した送金依頼書があれば保管しておきましょう。信託専用口座を使用しているときも基本的には同様の処理をします。このように会計業務を問題なく行う意味でも、信託財産である金銭はタンス預金等で扱うべきではないと言えます。

 この点、他の高齢者の財産管理制度である後見や財産管理委任契約等と比較すると、家族信託の会計業務は比較的負担が少ないと言えます。後見制度では1円単位で家庭裁判所のチェックが入りますので事務処理が大変です。財産管理委任契約も他人のお金を預かる以上、きちんとした管理が求められます。

 「財産状況開示資料」とは、信託契約締結時に作成した信託財産目録がそのまま使えます。もし内容に変化が生じているのであれば、その部分だけ修正すれば良いです。

 信託財産に賃貸物件が含まれている場合でも、その会計業務は、確定申告書を作成する作業と変わりません。信託していなくても発生する業務と同じです。よって信託財産になったからといって特別に業務負担が増すこともありません。

 以上のように、家族信託における受託者の会計業務は、一般の方でも容易に出来るようになっています。負担に感じることはほとんど無いでしょう。