信託契約書は私文書でもOK?

 家族信託の契約書を作成するにあたり、書式の決まりはありません。従って親子である委託者と子との間で私的に作成した書面でも契約はできます。

 結論から言いますと、家族信託契約書は「公正証書」で作成するべきです。私文書と公正証書の違いについては後記しますが、信託契約は通常長期間継続します。委託者兼受益者の死亡によって終了するとしても年単位で続くことでしょう。資産承継型信託とすると数十年は継続します。そして信託契約で取り決める資産は決して少なくないはずです。公正証書で作成しておけば、契約書の原本は公証役場で保管しますので、紛失の恐れは消えます。内容改ざんの心配もしなくて済みます。この点は遺言書でも共通です。

 信託契約の内容は家族間でしっかり話し合いを経て、みんなが納得できる内容でスタートしたつもりでも、将来その内容を良く思わない関係者が現れないとも限りません。私文書で作成していれば、作成当時の委託者の判断能力を問題にされて、信託契約の有効性を争うことは簡単です。そしてそうなれば有効性を証明するのに苦慮することになります。

 公正証書で作成する際には、公証人が契約当事者の判断能力を確認します。氏名・住所・生年月日・信託の内容などについて直接問いかけながら判断しています。公正証書で作成しておけば、作成当時当事者に判断能力があったと公証人が判断した事になりますので、後に争いになっても、契約の有効性を否定されにくくなります。公証人という社会的立場の人に間に立ってもらうことで、契約書がしっかりしたものになるのです。

 私文書と公正証書のメリット・デメリットを以下に記します。

 【私文書】メリット  ・作成コストがほとんどかからない(専門職へ設計を依頼したら報酬は発生)

      デメリット ・後に契約の有効性が争われる余地がある

            ・契約書の紛失の恐れがある

            ・信託口口座を作成する金融機関によっては私文書に対応していないこともある

 【公正証書】メリット ・謄本を紛失しても原本は公証役場に保管しており、再発行が可能

            ・金融機関の手続がスムーズ

       デメリット・費用がかかる