家族信託の契約が発効するのは、契約締結時です。つまり、親がまだ元気なうちから受託者となった子が親の財産を管理運用していくことになります。親の側からすれば、自分がまだ元気なうちは自分の財産は自分で管理したい、と考えることもあるかも知れません。だからといって、家族信託では、契約効力発効時期を「委託者の判断能力が低下したとき」とすることは契約上とても不安定なのでおすすめしません。
契約というのは発効日がとても大切です。「判断能力が低下した時」がいつなのか特定することは困難ですので、発効日で争いが生じる可能性が高いといえます。医師の診断書の日付としたとしても、診断された日には既に判断能力が低下していたということですので、契約の効力発生日の解釈で異なる見解が出る余地があります。
判断能力の低下や認知症の発症を客観的に判断することが困難である以上、上記の様な条件付きの信託契約は避けるべきと考えます。もし親が元気なうちは自分で管理して、将来判断能力が低下したときに子にバトンタッチをしたいと考えるのであれば、家族信託よりも任意後見契約の方が適していると言えます。家族信託と任意後見契約の特徴を以下にまとめます。
〇家族信託の特徴 ・元気なうちから信頼できる家族に財産管理を任せる
・金銭管理には金融機関の信託口口座の開設が必要
・信託財産には倒産隔離機能がある
〇任意後見契約の特徴 ・公正証書で作成する必要がある
・契約発効と当時に任意後見監督人が就任し、報酬が発生する
・金銭だけで無く、身上監護も可能。