家族信託と農地

 家族信託の信託財産となるのは、一般的には金銭と、自宅や賃貸物件等の不動産が多いです。一方私の地元山口県のような地方では、親の所有財産に農地が含まれていることが多々あります。そして将来農地を駐車場にしたり宅地にして売却したいと思う人も多いはずです。そのような状況であれば、家族信託の信託財産に農地も含めておき、将来親の判断能力が低下しても受託者である子が農地を処分できるようにしておけば安心です。

 ただし、農地は農地法によって規制されていて、農業委員会の許可または届出がなければ自由に売却したり贈与したり出来ないようになっています(相続を原因とする所有権の移転は事後報告で可)。信託についても、農業委員会の許可がなければ農地の信託契約は効力が生じない事になります。農地法でも農地を信託することは、特定の団体が引受ける以外は原則禁止されています。

 それでも農地を信託財産に加えたいというニーズに応える方法はあります。それは、農地も最初から信託財産目録に記載しておくということです。記載した農地は農業委員会の許可等の手続を経て初めて信託契約の効力が生じるので「条件付き信託契約」という形になります。

 農地を含めた信託契約を締結した後では2つの方法によって農地を信託財産にすることが出来ます。1つは現在の農地の所有者である親が自ら農地転用の手続を行う方法です。農地転用とは、農地を農地以外の用途の土地にする手続です。その手続をすれば農地は農地法の規制から外れ、信託契約の効力が及びます。もう一つは農業委員会に対し、親と子双方で転用目的権利移転の届出を行う方法です。ただし市街化地域限定です。届出を行い、それが受理された書面によって信託登記が可能になります。

 農地を信託財産に入れたときの注意点は、親が生前に農地転用や届出等をしなければ信託契約の効力が発生しないということです。その場合、信託の遺言代用機能を利用して農地の承継先を定めていたとしてもその部分には効力は及ばず、通常通り法定相続人による遺産分割協議をすることになります。従って農地が含まれる信託では遺言書も併用するケースが多くあります。