信託の受託者が変わるとき

 家族信託契約は通常何年という長期間に及ぶ契約です。受益者連続型信託であれば更に長く、20年程続くことも普通にあります。その間に受託者が死亡や解任等の理由で受託者を変更するケースも十分あり得ます。今回は、このように受託者が交代する時にどうするのかについて述べます。

 受託者が死亡した場合ですが、受託者の相続人は受託者という地位は相続しません。この場合、信託契約で後継受託者が指定されていればその人が受託者になります。なお、信託財産は相続税の課税対象にはなりません。

 後継受託者が指定されていない場合は、委託者が後継受託者を指定します。このとき既に委託者の判断能力が低下しており、後継受託者を指定する事が出来ないときは、後見人か保佐人を就けて後見人か保佐人が後継受託者を選任しない限り、受託者不在状態が1年経過した時点で信託契約が強制終了します。

 前受託者等には後継受託者へ引継業務をする義務があります。これは、受託者の不在により信託事務に空白期間が生じることを最小限に抑える目的から信託法で定められています。受託者が死亡した場合、受託者の相続人は、知れたる受益者に対して、受託者が死亡して受託者の任務が終了した旨を通知しなければなりません。受託者が後見開始または保佐開始の審判を受けて任務が終了した場合は、その成年後見人または保佐人に通知義務が生じます。受託者が同意を得て辞任する場合はその受託者本人が通知義務を負います。

 そして前出の ・受託者の相続人 ・受託者の成年後見人または保佐人 ・辞任した受託者 は後継受託者が信託事務の管理をすることができるまで、信託財産の保管をし、信託事務の引継ぎに必要な行為をしなければなりません。

 受託者が交代したときは、信託財産に関する必要な手続があります。まずは預貯金口座の変更です。信託口口座を使っていればほとんど問題なく手続はスムーズにいくはずです。問題は信託口口座では無く、便宜的に信託専用口座を使っていた場合に受託者が死亡した場合です。この口座は金融機関からすれば受託者個人名義の口座に過ぎません。解約や名義変更には通常の相続手続を求められます。遺言書が無ければ相続人全員の署名、実印、印鑑証明書が必要です。非協力的な相続人が1人でもいれば手続は進みません。その間に委託者や受益者に必要なお金が発生しても口座が凍結されているため、誰かが代わりに支払うということにもなります。そのようなリスクを回避するためにも信託口口座を必ず作ることをおすすめします。

 不動産に関しては、前受託者が死亡した場合は、後継受託者が単独で登記手続を行い、前受託者が辞任解任した場合は前受託者と後継受託者の共同申請によって登記手続を行います。