委託者≠受益者のケースの注意点

 家族信託の登場人物は3名です。委託者・受託者・受益者です。委託者は親、受託者が子、受益者は親というケースが一般的で自益信託と呼びます。言い換えれば、自分の財産を自分のために子どもに託す、というものです。信託設計によっては委託者と受益者が別人ということもあります。例えば親自身の財産を、障害を持つ次男のために、長女に託す、という場合です。この場合は委託者が親、受託者が長女、受益者が次男ということになります。

 受益者を誰にするのかは、委託者と受託者の合意で自由に決めることが出来ます。受益者となる人は受益権という財産を持つことになりますが、受益者の同意は不要です。この点が贈与と違います。「贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生じる。」と民法に規定されていますので、受け取る側の意思表示が必要です。そうなると受け取る側が幼児や障害者、高齢者など意思表示が出来ない人には贈与は出来ないことになります。家族信託ではもらう側の意思表示は不要ですので、一方的に受益権という財産を渡すことが可能になります。

 受益者は受益権を受け取ることに関して意思表示は不要ですが、受託者から受益者に対して、受益権を取得した旨の通知は必要です。通知ですので、相手方に諾否に応答を求めるものではありません。形式的なものと考えて良いでしょう。

 委託者≠受益者のパターン(途中で受益者が交代するケース含む)では税務面で下記のような注意が必要です。

 ・死亡を原因として受益者が交代した場合:相続税の課税対象になる

 ・死亡以外の原因で受益者が交代(対価あり):譲渡所得税の課税対象となる

 ・死亡以外の原因で受益者が交代(対価無し):贈与税の課税対象となる