信託財産の現金

 家族信託の最たる目的は、親の認知症対策といっても良いくらいです。認知症対策とは何かというと、親が認知症になっても子が親のお金を親のために自由に使うことが出来るようにする、ということです。ではなぜこれほでまでに対策が必要なのかというと、日本の金融機関は預貯金名義人の判断能力が低下していると判断したら即口座を凍結するからです。凍結されたらたとえ家族であっても金融機関は口座の解約や現金の引き出しには応じません。カードと暗証番号があれば一日の限度額までは家族が引き出せますが、カードが汚損破損して使用できなくなった場合は金融機関は再発行の際に本人に意思確認をしますので、その時点でアウトです。その後の対策としては①後見制度を利用する ②親の相続が発生するまで放置する の二択です。そうなれば親が施設に入所する際のまとまったお金が用意できなかったり、引っ越し費用が捻出できずに子供がその費用を負担することになります。親名義の不動産があっても同様に理由で当然売却できません。

 上記の様に認知症対策は金融機関対策といっても良いくらいです。更に金融機関は親名義の口座をそのまま受託者名義に変えることはしません。従って、いくら家族信託契約の中で信託財産として親名義の口座番号等を明記しても、金融機関には一切通用しません。ではどのようにするのかというと、新たに「信託口口座」を開設することとし、そこに入金する予定額も記載しておきます。契約書作成時点では具体的な金融機関名や口座番号は記載する必要はありません。必要なのは「現金 〇〇〇円」を「信託口口座」に入金して管理する、という旨の記載です。

 契約書が完成したら信託口口座を開設する予定の金融機関に出向いて、信託口口座の開設手続をとります。ここで注意することは、信託口口座の開設に対応している金融機関は、まだそれほど多くないということです。金融機関には事前に対応の可否を打診しておく必要があります。費用が発生する金融機関もありますので、比較検討することも必要です。無事信託口口座を作成できればあとは親の現在の口座から信託口口座に予定額に達するまで送金していきます。ちなみに信託口口座の口座名義は「委託者〇〇〇受託者〇〇〇信託口」という感じになります。一見して信託口口座であることが分かるようになります。信託財産が1千万を超えるのであれば、ペイオフ対策として決済用の無利息口座にしておけば、万が一金融機関が倒産した場合でも安心です。

 まとめると、信託契約を締結しただけでは、親の預貯金を子が自由に引き出せるようにはなりません。そうするためには親の現在の預貯金口座から、新規に開設した信託口口座に送金しなければいけません。