委託者の地位の承継

 遺言で信託した場合は、委託者の地位は自動的には相続により承継されません。これは遺言信託した場合について信託法147条で特に定められています。ということは信託契約による委託者の地位は本来相続によって承継されるのが基本ということです。

 相続発生によって委託者の地位が法定相続人に承継されますと、権利関係が複雑になったり、好ましくない相続人が関与することによる弊害を除外する目的で「委託者の地位は、相続により消滅し承継しない」という条項を設けることがあります。

 ただし、承継させた方が良いケースもあります。その一つは後継受益者も自分の財産を追加信託したいと考えているケースです。例えば当初の受益者を父親とし、後継受益者を母親とするケースです。父親死亡後に父親の受益者の地位を母親に承継させ、母親の財産も追加信託し、子である受託者が引き続き管理できるのであれば、十分ニーズに応えられると思います。このケースで「委託者の地位は、相続により消滅し承継しない」と定めていると、母親の財産を追加信託するには、改めて母親ー子間で信託契約を締結しなければなりません。その際に母親の判断能力が相当程度低下していればもはや契約締結は不可です。

 もう一つのケースは登録免許税の軽減税率の適用をするということです。不動産に関する話ですが、通常では信託終了後の所有権移転登記の登録免許税は2%です。ただし「当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である場合」には登録免許税が0.4%となる軽減措置が受けられます。この措置を受けるためには、受益者連続型信託の場合「委託者の地位は、相続により消滅し承継しない」としてはいけません。信託契約期間中は受益権の移動は問わず、委託者の地位と受益者の地位が連動して移転させることがポイントです。

 結論ですが、「委託者の地位は相続より承継せず、受益者の地位とともに移転する」という条項が良いと思います。