家族信託とは

 最近よくテレビや週刊誌などで取り上げられている「民事信託」ですが、これを一言で言うなら「特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすること」と定義することができます。言い換えるならば家族信託は「財産管理」と「財産承継」のための制度といえます。

 日本には財産管理の制度としては後見制度があります。財産承継の制度としては遺言があります。家族信託は財産管理に関しては後見制度と遺言の両方の機能を持たせることが出来ます。また、従来からの財産管理制度では、本人の判断能力の有無の前後で使う制度を変える必要がありましたが、家族信託は本人が元気なうちに契約を締結しておく必要はありますが、その後は本人の状態によって影響を受けることはありません。

 後見制度や任意の財産管理委任契約にかわる新しい財産管理の手段としての「家族信託」について、これから複数回にわたって掘り下げていきたいと思います。

 家族信託には6項目の基本的な構成要素があります。信託契約書を設計するには必ずこの6項目を確認しておく必要があります。以下各項目をみていきましょう。

 ①信託目的

  信託目的は、家族信託契約を締結する土台となる部分です。何のために財産を託すのか契約書で明確にしておく必要があります。また、将来信託事務を行うにあたり不明瞭な点が生じた場合に判断基準となります。目的は、財産を託す側を主体として設定します。家族信託は財産を託す側のためのものだからです。

 ②信託行為

  信託を行う法律行為のことを「信託行為」と言います。信託法によると信託行為には、信託契約、遺言信託、自己信託の3種類あります。財産管理として一番多いのが信託契約です。

 ③信託財産

  託する財産のことです。金銭や不動産、有価証券など管理処分を任せたいと思う財産を契約書で明記し託すことになります。託す財産は所有する全ての財産でなくても構いません。任意の一部の財産だけを託すという契約も可能です。

 ④委託者

  財産を信託する人をいいます。当初委託者の所有であった財産を、家族信託契約を締結することで後述する受託者の信託財産としての名義に変更することになります。家族信託契約で実際に良くみるのが、老親が委託者でその子供が後述する受託者となるケースです。

 ⑤受託者

  信託行為の定めに従い、信託目的の達成のために必要な行為をすべき義務を負う人をいいます。受託者には家族以外でも法人でもなることができます。弁護士等の専門職は受託者にはなれないとされています。

 ⑥受益者

  信託法によると、受益権を有する者とされています。受益権とは平たく言うと信託契約に基づいて信託財産から一定の引渡しや給付を受ける債権であり、受託者に対して一定の行為を求めることが出来る権利です。委託者と受益者が同一人物である信託も可能で、これを自益信託と言います。