受益者代理人を置く目的

 家族信託において、受益者代理人という立場の登場人物がいます。受益者代理人は必置ではなく、置くかどうかは任意に決めることが出来ます。受益者代理人の権限と役割について以下にまとめてみます。

 〇 権限

  受益者代理人はその名の通り、受益者に関する一切の裁判上又は裁判外の権限を有するとされ、さらに受益者代理人を置くときは、原則として受益者自身がその権限を行使することが出来ないとされています。結構強い権限を持つことになります。受益者代理人は、受益者本人の判断能力の有無に関わりなく置くことが出来ます。

 〇 役割

  受益者代理人を置くにしても、信託契約スタート時から置く必要性はあまりないでしょう。まだ委託者兼受益者である親の判断能力がしっかりしているからです。そこで将来受益者代理人が必要となった時点で任務についてもらうように、信託契約上で「就任承諾」の意思表示をすることで任務を開始するということにしておくと良いと思います。

  受益者代理人が必要となるタイミングとは、例えば受託者が急病や事故で意思表示が出来なくなったときです。この場合、委託者が受託者を解任して、後継受託者を指定すれば良いのですが、その時委託者の判断能力が著しく低下しているとそれもできません。そうなったときに受益者代理人に指定されていた人が就任の承諾をして、委託者に代わって受託者を解任することが出来ます。このような事態で受益者代理人を指定していなければ、意思表示できなくなった受託者が辞任も出来なければ解任することもできないという困った事態に陥ります。

  また、将来信託内容を変更する必要が生じた場合に、変更要件を「受益者と受託者の合意」にしていれば、変更するときに受益者の判断能力が低下していればもはや変更は出来なくなります。そのようなとき受益者代理人を登場させ、「受益者代理人と受託者の合意」という形にして変更できるようにしておけます。