平成30年の民法改正で、配偶者居住権と配偶者短期居住権という権利が新しく設けられました。令和2年から施行されています。従来は、残された配偶者が、そのまま自宅に住み続けるようにするためには、その自宅を相続するか、その自宅を相続した人(例えば子供)との間で賃貸借契約などを締結する必要がありました。自宅を相続した場合、一般に不動産の価格は高額になるので、金銭のほとんどは他の相続人に渡ってしまいます。結果として自宅を相続したけれど、生活費に困るというようなことがあります。また、自宅を相続した子から賃貸借契約をしようとしても、必ずしも契約が確保されているわけではありません。このような問題に対処するため、配偶者居住権という権利を新設しました。この権利を取得する際の金額を安く設定することで、配偶者が住む場所にもお金にも困らないようにしたのです。なお、配偶者居住権は、相続開始時に居住していた被相続人所有建物を、終身または一定期間、無償で使用及び収益することができる権利です。配偶者短期居住権は、相続開始時に遺産に属する建物に居住していた場合に、遺産分割が終了するまでの間、短期間、無償でその建物を使用することができる権利です。配偶者居住権は「終身・使用・収益」というキーワードがありますが、配偶者短期居住権は「短期間・使用」となっています。これが両者の大きな違いです。

 配偶者居住権の取得要件は以下の通りです。

  ・遺産分割で配偶者居住権を定めたとき

  ・配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき

  ・家庭裁判所の審判で配偶者居住権を設定したとき

 配偶者短期居住権の成立要件は以下の通りです。

  ・相続開始時に遺産である建物に無償で居住していたこと

 その他の違いとしては、配偶者居住権は登記をして第三者対抗要件を備えることができますが、配偶者短期居住権は登記できません。配偶者居住権は終身の間存続し、相当長期となることが想定され、途中で建物所有者により建物が処分される可能性もあることから、保護する必要があると考えられます。

 残された配偶者が、自分の亡き後も住み慣れた家で一生暮らすことができ、生活費も残してあげたい。そのような想いを実現するには、配偶者居住権を遺言に残すことも一つの方法かもしれません。