認知症対策

 高齢化が進行中の日本においては、福祉や介護の分野では、制度の充実化や施設数の増加などで対応しており、その面ではある程度の対策はできつつあるように思います。一方で、介護や福祉などの直接的な枠を超えた対策が必要となる場面では、まだまだ不十分です。高齢者が認知症になる可能性は相応に高いにもかかわらず、本人の財産管理の面では認知症対策は浸透しているとは言えません。

 では、認知症になると、本人の財産管理面でどのような支障が出るのかと言いますと、まず金融機関が本人の預貯金口座を凍結してしまい、家族でも自由に引き出せなくなる可能性があります。キャッシュカードと暗証番号を使って家族が引き出しているケースもありますが、凍結されるリスクは負い続けます。また、認知症になると法律行為ができなくなるため、施設入所後に住んでいた家土地を売却したくてもできません。上記のような場合は、成年後見制度の利用を検討するという一択になります。家庭裁判所が選んだ後見人に、本人の財産管理をしてもらうことになります。通常、後見人には報酬が発生します。財産の状況によりますが一般には毎月3~5万円だと言われています。一度後見人を付けてもらうと、本人が亡くなるか、病気が改善するまで外すことは通常できません。

 そこで事前の認知症対策が重要になってくるのですが、現在の制度では事前対策として大きく2つあります。1つは任意後見制度、もう一つは家族信託です。任意後見制度は、本人が元気なうちに、任意後見人になってもらう人を選んでおき、財産管理や身上保護など、代わりに行ってもらいたいことをあらかじめ決めておき契約しておくものです。家族信託は、財産を信頼できる家族や親族に、元気なうちに託しておいて、決めた目的のために管理運用してもらうことを決めておくものです。

 任意後見も家族信託も、初期費用と手間がかかりますので、そのことがネックとなって一歩を踏み出せない方も多いと思います。しかし成年後見制度を利用した場合のランニングコストと比較して、トータルでかかる費用を考えると、納得の上で制度利用を検討できるケースはあると思います。