成年後見と本人の医療行為

 成年被後見人である高齢者本人が、怪我や病気で入院・手術が必要となることは十分考えられます。そのような時、成年後見人は本人の意思を確認することなく入院や手術に同意することはできません。これは民法第858条の「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」という規定に基づくものです。

 通説においても、医療行為は身体に対する侵襲を伴う重大な行為であるため、医療同意権は一身専属性の強いものだとされ、本人にしか認められないとされています。この場合成年後見人としては、本人の意思決定支援を行うことに注力します。例えば治療方針の医師の説明の場に同席し、本人が理解しやすいような表現やコミュニケーションを行い理解をする支援をする、医療機関へ本人の既往歴や服薬歴に関する情報を提供するなどのことを行います。

 成年後見人は、本人が医療機関に入院する際に、保証人となるように求められることがあります。もし身元保証人になれば、本人との間で利益相反関係が生じますので、成年後見人が本人の身元保証人になるべきではありません。医療機関に対しては、支払に関すること、死亡時の遺体引き取りに関することに問題が無いことを説明し、身元引受人無しで医療契約を締結するように要請します。それでも身元引受人を求められた場合には、「身元引受人」を「成年後見人」に書き換えて記入する対応が無難です。

 成年後見人が、医療機関から手術等の同意書への署名を求めてくることがありますが、成年後見人には医療同意権がありませんので、同意書に署名することは不適切です。この場合、本人の意思確認が取れるのなら本人の署名を代行します。または同意書の欄外に「成年後見人として担当医の説明を受けました」と記載した上で署名することもあるようです。