高齢者の財産管理のための家族信託

 家族信託契約は、高齢者の財産管理として有用です。しかし、この契約では財産の管理しかできません。高齢者本人の身上保護はできませんので、信託契約を締結する際は、併せて任意後見契約を締結するなどして、身上保護面をカバーすることがあります。

 家族信託で想定している登場人物は、・高齢者本人(委託者) ・高齢者の子(受託者) ・信託財産から利益を受ける人(受益者)の三名です。委託者と受益者は共に高齢者本人とすることもありますし、特定の親族を指定することもできます。

 書籍やメディアでよく紹介されているケースは、家族信託を利用する人家族は、賃貸アパートなどの不動産を所有していて、その経営を自分に代わって子どもにやって欲しいと希望する家族、というのがあります。確かに資産家の家庭であればこの制度の利用価値は高いでしょう。しかし賃貸経営をするような資産がない人にとっても家族信託は財産管理としてとても便利な制度です。その理由を以下に挙げます。

 ・信託した財産は、委託者から受託者へ所有権が移動します。しかし受託者固有の財産ではなく、「信託財産」として対外的には示されます。例えば銀行口座の名義は「委託者〇〇〇〇受託者△△△△信託口」となります。不動産の登記にも信託財産であるという記載がされます。従って受託者が信託財産を処分するには信託目的のためでなければならず(銀行からは確認を受けます)、また受託者の債権者が信託財産を差し押さえることもできません。

 ・家族信託契約には遺言代用機能があります。財産の承継先を自分の次のみだけでなく、次の先まで決めておくことが出来ます(期間制限はあります)。これは遺言では実現できないことですので、財産の承継先を数代先まで決めておきたいと思うのであれば家族信託を利用するべきです。

 ・信頼できる家族に、自分の財産の管理を託すことが出来ます。別の制度を利用すれば、例えば成年後見人は家族以外の専門職が専任されることが多いです。たとえ後見人候補者として記載した親族が専任されたとしても、後見監督人が就くケースが多いです。その点家族信託では第三者が財産のことで関与することはほとんどありません。

 以上のようにメリットのある家族信託ですが、この制度を利用するには何より家族間の信頼関係が大切です。親子間だけではなく、きょうだい間の関係も良好でなければ成立しません。信託契約の内容にもよりますが、一定の親族は信託契約の中で何らかの役割を果たしていく事があるからです。