平成30年の民法改正で906条の2が新たに設けられました。
906条の2
1 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項に規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
共同相続人が遺産分割前に共有持分を処分することは禁じられていません。また、遺産分割の対象財産は、相続開始時に被相続人に属し、かつ、遺産分割時も存在する未分割の財産です。そのため、相続開始後、遺産分割前に処分された財産は、遺産分割時には存在しませんので原則として遺産分割の対象とはなりません。結果として、他の共同相続人との関係で、不公平な結果が生じることになります。以下の事例で考えてみます。
相続人:子 3名(A B C)
相続財産:建物 900万円
Aが遺産分割前に自分の共有持分の300万円を売ったとします。そうすれば遺産分割の対象は建物3分の2(600万円)だけになります。これをABCの3人で分け、それぞれ600万円÷3人=200万円分の建物共有持分を取得することになります。結果としてAが300万円+200万円=500万円を得ることになり、BCとの関係で不公平になります。そこでBCが合意すれば、売られた建物の3分の1は遺産分割時に存在するものとみなして分割できるので、ABCが各300万円を取得します。これでABC間の公平を確保することができます。なお、財産を処分したAから同意を得ることは要しません。
今までの実務や判例でも、共同相続人全員の合意があれば、遺産分割前に処分された財産も遺産分割の対象となるように扱い、不公平が生じない対応をしてきました。今回新設された906条の2第1項は、従来のその考えを明文化したものといえます。