近年の延命治療の進歩により植物状態のまま長く生存する患者が増えています。そのような状態になったとき、親族に金銭的精神的負担を強いることを避けたいと考える人がいます。治る見込みが無い状態になれば生命維持治療を控え、人間としての尊厳を保ったまま自然な死を迎えたいと望む人もいます。そのような人たちの意思表示を形にしたものが「尊厳死宣言公正証書」です。

 尊厳死宣言は死を扱うものであって、死後の財産や身分関係を扱うものではありません。したがって尊厳死宣言を遺言ですることはできません。公正証書でする必要があります。尊厳死宣言公正証書は事実実験公正証書の一つです。事実実験公正証書とは、公証人が五感で直接体験した事実に基づいて作成する公正証書であり、証拠保全の機能があります。公正証書遺言のときと違い、証人は不要です。公証人へ支払う手数料は1万数千円程度です。文例はあらかじめ用意されていますので、比較的短時間で作成できます。

 尊厳死宣言公正証書を示しても、実際に延命治療を施すかどうかの判断は医療の現場で決まります。必ずしも患者の自己決定権が優先されるとは限りませんが、実際に尊厳死宣言公正証書を医師に示したときの尊厳死許容率は9割を超えるとの統計もあります。

 延命治療が必要なときには本人は意思表示ができない状態だと思います。尊厳死宣言公正証書を作成した後は、信頼できる家族等に託し、その意思が確実に病院側に伝わるようにしておきましょう。