信託の受託者はひとり?

 家族信託の内容をどのようにするかは幅広く決めることが出来ます。設計には自由度が高いため、各家庭の事情に柔軟に合わせた内容にできるのも家族信託の長所です。そして受託者の人数にも決まりは無く、複数人の受託者を置くことも可能です。複数置いたときの信託事務の決定方法は、保存行為を除いて「受託者の過半数をもって決する」ことが信託法で定められていますが、この点も契約書で自由に変えることが可能です。

 受託者を複数置くメリットは、信託事務を分け、それぞれを各受託者で分担することができることです。例えば高齢の委託者の親の日常生活に関する事や日々の生活に必要なお金の管理は一緒に暮らす長男に任せ、その他の普段使用しないまとまった財産は近くに住む長女に管理を任せる、というケースです。この場合長男は親である委託者の日頃の生活に係わる事務は行う必要はありますが、大金を管理することの負担はありません。他方長女は親の大切な老後の財産を管理する負担は負いますが、日常生活のことは長男に任せておけば安心できます。家族関係が良好であれば、みんなで支え合っていくという形が取れます。

 また別のケースでは、親である委託者の信託財産に賃貸物件が含まれているケースで、賃貸物件の管理運営を長男に任せ、それ以外の事を長女に任せるということが考えられます。この場合長男は慣れない賃貸物件の管理運営を覚えることに専念できます。長女は親の日常生活に関する事務を行い、難しいアパート管理は長男に任せておけば良いのです。

 複数置いた場合の受託者のことを共同受託者といいます。共同受託者を置くメリットは上記の通りですが、デメリットもあります。それは、信託口口座が作れないということです。作れないのは、現時点で銀行が対応していないからです。この先はどうなるか分かりません。信託口口座の倒産隔離機能はメリットがありますので、共同受託者を置く場合は、信託口口座以外の信託専用口座で信託財産を管理するリスクをきちんと把握しておく必要があります。