「遺言を残したら、財産を使えなくなる」という思い込みや後ろめたさから、遺言を残すことをためらう方もおられるのではないでしょうか。そこで、以下の三点を確認することにします。

  ・遺言は相手方の無い単独行為である。

  ・遺言は、死亡の時からその効力が生じる。

  ・遺言の内容と抵触する生前処分の行為は、遺言を撤回したものとみなす。

 遺言書を残したからといって、その遺言書に縛られるわけではありません。なぜなら遺言は、遺言者の死亡までは効力が発生しないからです。さらに、遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部または一部を撤回することができます。遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができません。遺書者の最終意思を尊重するため、遺言の自由の原則が採用されています。「遺言をする・しない」「変更・撤回をする・しない」の自由が法律で保障されています。遺言の全部や部分的な撤回はいつでも自由にできるのです。撤回は、遺言の方式に従っていればよく、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできます。自分の本心とは違う内容の遺言を残してしまった時や、遺言を残した時から時間が経過したことで、内容を変更する必要が生じた等、撤回する理由や必要性は様々あるかと思います。中には毎年遺言書を書き換えている方もいらっしゃるとのことです。遺言の自由と言っても当然ながら公序良俗による制限は受けます。「婚姻外の愛人に財産を残したい」といったような依頼があったときは専門職としては要注意でしょう。

 遺言書が複数通出てきたとします。この場合は日付の新しい方の遺言書が有効になりますが、日付の古い方の遺言書の内容と抵触しない部分については、古い日付の遺言書の当該内容も有効になります。しかし、遺言書を全て読み込み、有効無効の判断をするのは困難な場合も考えられます。曖昧な部分があれば後のトラブルを招きかねません。遺言を書き換えるのであれば、一度古い遺言を全面的に破棄した上で、改めて最初から書き直した方が良いと思います。